没入体験をつくるはずが、できあがったのは、ダイバーシティコンテンツ。『YU-MO』の軌跡 前編
公開: 2026.10.06 TUE
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指文字「け」のかたち
「ダイバーシティ(多様性)」という言葉を耳にするとき、どこか遠い、スローガンのように感じてしまうことはないでしょうか。
丹青社CMIセンターが開発した『YU-MO(ゆーも)』は、手話を補足する表現方法のひとつである「指文字(ゆびもじ)」をテーマにした体験型コンテンツです。
面白いのは、この体験が「社会課題の解決」を狙ってつくられたものではないこと。出発点は「没入映像」でした。
今回は、ひとつのプロトタイプが「思いがけない価値」に出会うまでの歩みと、3年間の、メンバーの変化の軌跡をご紹介します。
丹青社CMIセンターでは、若手メンバー自ら手を動かして空間体験の可能性を模索する「自主実践プロジェクト」を継続しています。『YU-MO』は、このプロジェクトから生まれたシリーズ作品です。
登場するひと
登場するひと
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木村 晃子
『YU-MO』ディレクター/CG制作チームリーダー(聞こえる側)。「指文字」の可能性に気づき、企画を立ち上げたキーパーソン。
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片重 千尋
『YU-MO』2025年リーダー(聞こえない側)。 CGチームの第一線で活躍中。企画誕生のきっかけになった「指文字クイズ」の出題者。
『YU-MO』誕生のきっかけは、毎朝の指文字クイズ
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指文字クイズのイメージ Generated by Gemini
『YU-MO』誕生のきっかけとなったのは、CMIセンター・CGチーム内の何気ない日常のコミュニケーションでした。
CGチームとは、3DCGのパースや映像などの制作を通して丹青社のデザイナーをサポートする部隊。ここでは多くの聴覚障がいのあるクリエイターが活躍しています。
当時、チーム内で唯一「聞こえる人(聴者)」だった木村は、メンバーとのスムーズなコミュニケーションのために手話を覚えたいと考えていました。しかし、手話は覚える単語が多く、なかなかハードルが高かった……。
そんなある日、聴覚に障がいのあるメンバー同士が、手話とは異なる「不思議な手元の動き」で会話しているのを目にします。 それが、日本語の50音を手の形で表す「指文字」との出会いでした。
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指文字50音。ちなみに『YU-MO』という名前はプロジェクト初期に呼んでいた「指文字ミュージアム」という仮称の名残。
手話がひとつひとつの動作で単語を表す「言葉」だとすれば、指文字は「あ」から「ん」までの50音を指の形で一文字ずつ綴る「ひらがな」です。
「50音なら、覚えられるかもしれない」
そう感じた木村は、メンバーの片重に毎朝「指文字クイズ」を出題してもらい、勉強を始めました。
—— これが、面白かった。
木村が感じた小さな手応えが、のちに『YU-MO』という体験型コンテンツへと実を結ぶことになります。
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指文字クイズのイメージ「い・わ」 Generated by Gemini Notebook
第一弾『YU-MO』(2023年)|ノイズ音と3面映像でつくる「音の届かない世界」
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『超文化祭2023』で公開した初代作品|イマーシブコンテンツ×音の届かない世界『YU-MO』体験風景
2023年、『超文化祭』に向けて、CGチームにコンテンツ制作の依頼が舞い込みます。
お題は「3面大型モニターを使ったイマーシブコンテンツ」です。
リーダーとなった木村は、「イマーシブとはなんだろう?」「どうしたら肉眼で没入感を感じることができるのだろう?」といったイマーシブ要素の紐解きとCG表現の検討を進めていきます。
同時に、「聴覚に障がいのあるメンバーがつくるのだから、ダイバーシティの要素を自然な形で組み込めないだろうか」とも考えていました。
そのとき頭に浮かんだのが、例の「指文字クイズ」です。
こうして、CG×指文字という異色の組み合わせ『YU-MO:イマーシブコンテンツ×音の届かない世界』が誕生します。
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イマーシブコンテンツ×音の届かない世界『YU-MO(ゆーも)』(2023)のワンシーン
体験デザインで特にこだわったのは、聴覚障がいのあるメンバーが感じている「音環境」の再現でした。
水中で聞く音や、暴風の中で周りの音が聞こえないノイズ音に包まれた感覚——。「聞こえる人」にこの感覚を疑似体験してもらうため、「ノイズ音」に近いイメージ音を大音量で流し、聞こえる人の音を遮断する環境をつくり出しました。
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イマーシブコンテンツ×音の届かない世界『YU-MO(ゆーも)』(2023) 体験シーン抜粋
プログラムは、ヘッドホンを装着し、周囲の音が遮断された「ノイズの世界」に身を置くところから始まります。 やがて、正面の3面大型モニターに映し出された3DCG映像が動き出し、一気に別世界へ!
たどり着くのは「指文字の世界」。画面のイラストをヒントに指文字を解読していく8分間の挑戦の旅です。
チームのCGスキルと、個性である「音が届かない世界」を掛け合わせた、イマーシブ体験が完成しました。
こうして迎えた『超文化祭2023』の本番。案内役として現場に立った開発メンバーは、体験者の様子を見ていて気がつきます。「指文字になじみのない人たちにとっては、この解読は少し難しそうだぞ……」と。
画面の前で戸惑う体験者を見て、メンバーたちが動き出しました。ジェスチャーや口の動きでそっとヒントを送り始めたのです。
「えっ?あ……そういうこと?わかった!」
心が通じ合う瞬間が生まれました。
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『YU-MO SPORTS – YUBILYMPICS 2025 -』 体験風景
偶発的に起こった、体験者と「聴覚に障がいのある案内人」の双方向コミュニケーション。
没入映像体験に加えて、リアルタイムの「互いに不慣れなコミュニケ-ション」がセットになることで、体験者の心をグッと動かしていた――。
イベントアンケートの声によって、メンバーは、作り手本人すら気づいていなかった『YU-MO』の提供価値を知ることになります。(後編へ続く)
取材・文:CMI編集チーム・M
Project Information
| Project | イマーシブコンテンツ×音の届かない世界『YU-MO(ゆーも)』(2023) | |
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| Year | 2023 | |
Project Team
| Project Direction | 木村晃子 | |
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| Project Member | 片重千尋、平野友宏、山下祥生、藤本彩加、正村元伸、片岸修斗、石田裕美 | |

