没入体験をつくるはずが、できあがったのは、ダイバーシティコンテンツ。『YU-MO』の軌跡 後編
公開: 2026.10.06 TUE
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『YU-MO SPORTS – YUBILYMPICS 2025 -』 では、筑波技術大学の学生が開発した「指文字認識AI」とコラボ
指文字(ゆびもじ)をテーマにした体験型コンテンツシリーズ『YU-MO(ゆーも)』。
2023年の秋、第一弾『YU-MO』の発表を終えたメンバーのもとに、体験者アンケートの声が届きます。
――「聴覚に障がいのある方の日常をほんの少し体験でき、言葉を超えたコミュニケーションをゲーム感覚で学べる、素晴らしいコンテンツでした」
――「学習的になりがちな“ダイバーシティ”を、こんなに楽しく仕上げるとは!」
予想外に熱量の高い感想の数々に、メンバーは驚いたそう。
①自分達ですべて作り上げた「没入映像体験」を披露した。
②体験をきっかけに、来場者と「聴覚に障がいのある開発者」のコミュニケーションが自然発生した。
〈①没入映像体験〉に加えて、〈②リアルタイムのコミュニケ-ション〉がセットになることで、「貴重で稀少な体験価値」となり、体験者の心を動かした――
『YU-MO』の新たな提供価値の発見でした。ここから『YU-MO』は、「ダイバーシティコンテンツ」としての歩みを進めていくことになります。
アンケートで気づいた『YU-MO』の提供価値
なぜ『YU-MO』が、人々の心を惹きつけたのか。
体験後のアンケートに並んでいたのは、「聴覚に障がいのある方と初めて話せた」 「貴重な体験だった」といった素朴な喜びの声でした。
どこか身構えてしまいがちな、障がいのある方とのコミュニケーションが、ゲームという仕掛けを通した瞬間に、驚くほど自然に、楽しく始まっていく。 制限時間があるなか、難しく考える暇もなく、必死に手探りで進めていくうちに、気づけばお互いの壁がするりと溶けている。その「気負わずに、いつの間にか繋がっている楽しさ」こそが、体験者の心に余韻を残していたのです。
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『YU-MO SPORTS – YUBILYMPICS 2025 -』 体験前のチュートリアルの様子。来場者の方からは「聴覚に障がいのある人とコミュニケーションを取るのは初めて」という声も多く聞かれました。
そして実はもうひとつ。体験者も、もしかしたら開発メンバーたち自身も気がついていないかもしれない、もう一段深い構造が『YU-MO』にはあります。
それは、体験者は「聴覚に障がいのあるメンバーたちが日々実践しているコミュニケーションのあり方」を追体験している、ということ。
「聞こえない/聞こえにくい」人たちは、日常生活の中で、「もしかして今、話しかけられた?」「こういうこと言ってるっぽいぞ?」と、相手の口元・表情・状況から必死に想像力を働かせ、欠けている情報を推理で補いながら、会話を成立させています。
『YU-MO』は、聞こえる人が逆の立場(情報が不完全な状態)を体験する構造になっています。ゲームのルールや指文字がよく分からないからこそ、隣に立つ案内人の口の動き・表情・ジェスチャーを必死に読み取ろうとする。情報が欠けているからこそ、お互いが全感覚を使って歩み寄る「手探りのやり取り」が自然と生まれるのです。
こういう苦労があるんだ、と感じること。
手話ができなくても大丈夫。伝われば何でもいいんだ。と気づくこと。
一口に「聞こえない/聞こえにくい」と言っても、手話が得意な人、口話(発音)が得意な人など、一人ひとり特徴が異なるらしい、と知ること。
一度の体験でどこまで気づくかは人それぞれですが、ダイバーシティという硬い言葉を教科書上で習うよりも「身体感覚」として入ってくるのが『YU-MO』なのです。
コミュニケーション込みで『YU-MO』。
この価値を確信したチームは、翌年以降、「指文字を通した対話」という核はそのままに、掛け合わせるテクノロジーを毎年変えながらアップデートを重ねていきます。
映像/AR/AI。技術の掛け合わせで広がる体験設計
指文字×〇〇。メンバーは、自分たちの武器であるビジュアル表現をベースに、毎年異なるテクノロジーを掛け合わせ、体験の幅を広げることに挑戦しています。
2024年(第2弾:指文字×AR)
体験スタイルを、着座から回遊型へアップデート。リアル空間を自分の足で歩き回り、宝探しのようにヒントを探す体感性を付加するためにAR技術を採用しました。タブレットをかざして空間に潜むヒントを探す、探検型指文字解読体験。
2025年(第3弾:指文字×AI認識)
筑波技術大学の学生が開発した「指文字認識AI」とコラボし、これまでの「画面上の指文字を読む」から、体験者自らがカメラに向かって手で指文字を「つくる(能動)」体験へとジャンプさせました。
「指文字に触れる」という体験の核を軸に、異なる技術を掛け合わせることで、体験と表現の可能性をアップデートし続けています。
『YU-MO』がもたらした変化
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『YU-MO』チームメンバー
3年間の『YU-MO』の開発と何百人ものアテンド経験は、メンバーと丹青社社内、双方の空気に変化をもたらしました。
1. 「裏方」から「前」へ。メンバーの成長と挑戦
もともとバックオフィスでパースや3DCGの制作を担う、どちらかというと裏方だったメンバーたち。『YU-MO』のアテンドを重ねるうちに、少しずつ「前に出る力」を身につけていきました。
片岸(2024年リーダー)は、自作のイラストがお客さんに喜ばれるのを見て、表現することへの自信を掴み、片重(2025年リーダー)は、部署外や社外の新たな視点に触れ、共創の面白さに目覚めたといいます。
また、平野(3DCG・UI)は、3DCGの専門領域を大きくはみ出し、3Dモデリング、3Dモデルを活用した拡張表現など新しい技術領域へ挑戦。開発の守備範囲を積極的に広げるなど、年々成長を遂げています。他メンバーも、学校訪問や福祉イベントなど、活動の幅を社内外へ拡げています。
2. 社内の変化
「どう話しかければいいんだろう」と、周囲が勝手に抱いていた「遠慮の壁」。『YU-MO』体験を通してその壁がやわらぎ、「聴覚に障がいのある人」としての意見を聞きたい、といった実案件がらみの相談が舞い込んでいるそうです。
社内有志による交流イベント「手話飲み」も賑わいを見せ、『YU-MO』を契機に、部署を超えたコミュニケーションが少しずつ活発になってきています。
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社外イベントに参加する『YU-MO』チームメンバー -

10年前から続く手話飲みは、参加者が年々増えている。
「外に開く」ということ
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『YU-MO SPORTS – YUBILYMPICS 2025 -』では、 筑波技術大学の学生が開発した「指文字認識AI」とコラボレーション
はじめは、「3面モニターで没入体験をつくるには?」から始まった『YU-MO』。しかし、実際にかたちにして発表した結果、チームは自分たちの作品がもたらす思いがけない提供価値に気がつきました。
つくって、見せて、得た学びを次へつなげる。
このコンテンツがあることで、外部のイベントに呼ばれることも多くなりました。
社内で起きたことが、イベントを通じて外部の方にも起きはじめています。
ここまでの展開は想像していませんでしたが、様々な方からいただく「いいね!」を大切に、私たちはこれからも試行錯誤を続けていきます。
取材・文:CMI編集チーム・M
登場したひと
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木村 晃子
『YU-MO』ディレクター/CG制作チームリーダー(聞こえる側)。「障がいのあるなしに関わらず、全員がちょうどいい距離で、遠慮なく、不自由なく一緒に仕事ができる社会。それが、私の目指す未来です」
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片重 千尋
『YU-MO』2025年リーダー(聞こえない側)。企画誕生のきっかけになった「指文字クイズ」の出題者。「次はリアル空間とデジタルを掛け合わせ、複数人で協力して楽しく遊べる体験に挑戦したいです」
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片岸 修斗
『YU-MO』イラスト・ノベルティ担当/2024年リーダー(聞こえない側)
「聴覚障がいがあっても、伝え方や感じ方は人それぞれ。YU-MOをきっかけに、聞こえないって、こういうことなんだと少しでも身近に感じてもらえたらと思っています」 -
平野 友宏
『YU-MO』3DCG・UI担当(聞こえない側)。担当守備範囲をどんどん広げるチャレンジャー。「指文字、手話に興味を持っていただけるだけでも嬉しいです。簡単なジェスチャーでも伝わりますので、難しく考えず、ぜひ話しかけてください」
Project Information
| Project | イマーシブコンテンツ×音の届かない世界『YU-MO(ゆーも)』(2023) 指文字×AR『見つけて!YU-MO(ゆーも)』(2024) 『YU-MO SPORTS – YUBILYMPICS 2025 -』 |
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| Year | 2023 – 2025 | |
Project Team
| Project Direction | 木村晃子 | |
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| Project Member | 片重千尋、平野友宏、山下祥生、藤本彩加、正村元伸、片岸修斗、張子皓、石田裕美 | |






