たたずむ、近づく。その「ふるまい」が体験に ―― UWB屋内測位がつくる、新たな空間表現
公開: 2026.10.06 TUE
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初めて出会う一枚の絵。未知のエンターテインメント空間。
新しい世界を前にしたとき、私たちが求めているのはスマートフォンをスクロールしたり、QRコードを読み取ることではないはずです。
少し前へ進む。
一つの作品の前でじっと佇む。
待機列に並ぶ。
そうした自分のふるまいが、そのまま体験を拡張する情報へとシームレスに繋がっていく。
行動と空間、そして、行動と情報を境目なく結ぶ「透明なインフラ」を実空間へ実装できたなら、体験はどう変わるだろうか――。
本稿では、CMIセンターが重ねてきた実践の系譜と、UWB測位が切り開く新たな挑戦の現在地をレポートします。
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ふるまいが、体験を拡張する Generated by Gemini
『ネコカイギ』からUWBへ
2025年、私たちは音声ガイド『ネコカイギ』を開発しました。スマートフォンを操作することなく、展示に近づくだけで自動的に音が届く。位置情報をトリガーにした「デバイスを意識させない体験」への、最初の一歩でした。
Bluetoothベースの測位技術を用いた『ネコカイギ』は、「操作なし」というハンズフリーの自由さと、現在地に沿った音声がタイムリーに届く心地よさをもたらしました。
しかし、実装して見えた課題もありました。 位置データの精度がやや甘く、やりたいことの完全実現が難しかったのです。
安心して表現をのせられる土台・UWB
位置データが揺らぐ環境では、複雑な演出を実装することができません。精度高く位置を認識し、制約なく表現をのせられる土台を築きたい。そこで注目したのが30~50cm精度の無線技術「UWB(超広帯域無線)」を用いた測位です。
UWB(超広帯域無線・Ultra-Wideband)
データの送受信や位置測定に用いられる無線通信規格の一つ。最大の特徴は、GPSの電波が届きにくい屋内において、BluetoothやWi-Fiを圧倒する「センチメートル級の超高精度」で位置を特定できること。広大な屋外よりも、設備を整えられる屋内空間で真価を発揮する。
体験者の現在地や体の向きをピンポイントで捉え、動きに応じた音声やグラフィックを遅延なく出し分ける演出(位置連動体験)に適している。
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概念図|UWBアンカーが送信機、体験者が身に着けるタグが受信機の役割を果たす。Generated by Gemini
屋内で圧倒的に精緻な座標データを捉えられるUWB。このデータを自在な演出へとつなぐ存在が、「専用アプリ」です。
アプリ開発で実現する、自由な連動設計
UWBは、あくまで「位置と時間の正確なトリガー」を提供する目に見えない黒子(くろこ)。
UWBが捉える座標データを、どうやって体験に繋ぐか。その鍵を握るのは、システムと連動する「専用アプリ」の設計です。
私たちは、空間演出のプランニングからアプリケーション開発までを地続きで行っています。
システム単体を導入するのではなく、空間デザインとシステムを一つの体験として一体でつくり込む。これが、丹青社CMIセンターのスタンスです。 施設の目的に合わせ、音・光・映像・言語など、あらゆる演出要素を自在に組み合わせて同時出力することができます。
いくつか、事例をみてみましょう。
空想事例 #01:距離でなめらかに変化する「音とビジュアル」
作品から離れているときは空間全体の「環境音」が流れ、近づくにつれて自動で「作品のストーリー解説」へ。さらに進むと「細部の深い解説」へ移りかわる。3段階にくっきり分けるのではなく、物理的な距離に同期してフェードイン/フェードアウトするような、なめらかな音声体験。
画面表示でテキストや図解を同時に届けることで、聴覚に不安のある方や聞こえづらさを抱える方へのアクセシビリティ確保にも繋がります。
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空想事例1|距離に同期するガイド Generated by Gemini
空想事例 #02:視線を誘う「照明(スポットライト)連動」
展示に近づいた瞬間に、「視線を向けてほしい展示(たとえば彫刻や絵画)」へスポットライトがふわりと灯る。数メートル進むと、別の場所のライトが灯る。そんな、視線を自然に誘う演出も可能です。
位置データは演出にとどまらず、来場者がどの展示に深く興味を持ったか、すなわち滞在傾向の可視化や回遊分析など、施設運営の向上に資するデータ活用へと広げることもできます。
いざ、検証
どれほど魅力的な空間演出を思い描いても、実際の会場でスムーズに動かなければ意味がありません。そこで、現場で確実に動作する環境の構築を目指し、丹青社CMIセンターのスタジオに検証の場を立ち上げました。
目指す精度がしっかり出るのか。ほかに課題が潜んでいないか。徹底的なテストの始まりです。
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丹青社港南ラボ Mk_3 STUDIO(マークスリー スタジオ)でのUWB検証の様子
検証では、スタジオ高所に3台の「UWBアンカー」を設置し、メンバーが試作タグを携帯して回遊。動かして見えてきたのは、実運用に向けたリアルな課題でした。
電波の反射(マルチパス干渉)
壁や什器に電波が跳ね返り、座標が乱れる現象が発生。アンカーの取付位置や角度を調整することで解決できることを突き止めました。
座標の追従遅れと同時接続数のトレードオフ
座標の追従遅れを無くすために通信間隔を短くすると、同時接続できる人数が減ってしまうトレードオフが判明。体験の快適さと同時に体験できる人数の最適なバランスを追求しています。
高天井空間への適応
大きな空間でも安定した通信を保てるよう、設置環境に合わせた電波飛距離のチューニングを進めています。
テクノロジーを、空間の心地よさへと翻訳する
実空間で機能する体験へ。
テクノロジーが主張するのではなく、人のふるまいに寄り添ってなめらかに変化していく。そんな「今までにない尺度での空間体験」を、実現させていきたいと考えています。
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来館者役に持たせたスマートフォン。USB給電で接続した試作型の「小型UWBタグ」が仕込まれている。
画像・文:CMI R&Dチーム・N&I
